水俣市立水俣病資料館

選評・・・・・・延藤安弘
■現地で見るこの建築は、環境と深いかかわりの世界のデザインに敢然とふみこんだ迫力に感動の風が身体を吹きぬける程である。
■屹立するコンクリートの壁は、まわりを切断することによって、近代の産業活動による環境収奪の問題を暗示している。しかし、その肌合いは微妙に変化が与えられており、これからの活動の質的変貌を予見させているかに思える。
■内部空間に入るや、壁と壁が構成する大小のスキマとしてのファインダーが外部の海の風景を多角的にとりこんでいる。それは、細かい縦のスリットから差し込む海からの光線であったり、縦横のコンクリートスラブが額ぶちのように広がりのある海と水平線をトリミングしたり・・・・・・と誠に美しいシーンが劇的に眼に鮮やかにとびこんでくる。その心楽しい体験を重ねているうちに、これらは、水俣の住民が海という自然環境とむつまじく共生してきた意志と、これからいっそう共生の関係を深く紡ぎたいという希望の気持を示しているのではないかと思う。
■海に向かってほほ笑む少女の透徹した眼差しのやさしさを表現する写真が、スリットからもれる光によって、いっそうやさしさが増幅してみえる場に立った時、そのことをさらに深く感じることができる。

竣工年月1993年 1月
所在熊本県 水俣市
延床面積1.051.12平米
構造
施主の希望